恐ろしい朝の運動



1999.09.01
http://www.geocities.com/HotSprings/4347/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170 河合 医院

朝の体操やジョギングで軽い汗をかき,熱いシャワーで体を目覚めさせ,しっかり朝ご飯を食べて仕事に向かう。健康的で正しい生活と昔から考えられています。

心電計を新しくしました。コンピューター内蔵で高くつきました。また,借金が増えるわけで,困っています。メーカーにうまくやられた感があります。今度の機械は24時間の血圧の記録装置が附属しています。いつも外来で安定した血圧を示している女性に,不整脈の検査のついでに血圧も記録してみて,驚くべき数字が出ました。
この方は外来にいつも10時頃こられて,血圧は何年も最高血圧が140,最低血圧が80くらいで理想的なコントロールと考えていました。

しかし,24時間血圧記録では,起床の5時頃最高血圧が200以上を示し,その状態が9時頃まで続いているのです。しかし,医院にこられる10時頃からは140台になり,その後は 安定して一日を終っています。薬の服用は朝食を取った食後の7時だそうです。薬の効果は2〜3時間後に現われますから,医院に来られたときには下がっているのです。5時から7時まで特に運動もせず,新聞を読んだり,テレビを見ていたそうです。運動をしなかっただけ幸いでした。

全例がこの様なわけではありません。一日一回の薬の服用で,一日中安定した血圧を示す人も結構あります。しかし,高血圧者も正常血圧者も,血圧の日内変動を示すのは昔から知られています。脳卒中の発生も心筋梗塞の発生も朝に多いのが知られています。朝起きると交感神経と副交感神経の切り替えが行われ,交感神経により心臓や血管は刺激を受け過敏な状態になっています。また,高血圧患者の一部には,朝の血圧が先ほどの例のように著しく上昇する人があるのが解っており,この上昇を morning surge(モーニングサージ)といいます。この様な人が早朝に運動するのは,軽くても危険です。

血圧の日内変動報告に差がありますが,早朝と6時頃にピークを示すものや,夜8時頃まで下がりにくいという報告が見られます。これらを信じるなら,運動するなら,夜や夕方にスポーツジムにいったり,夜に犬の散歩にでもつきあうのがいいようです。もちろん,スポーツジムに血圧計があれば,運動前に測定して,高ければやめておいたほうが良いのです。日内変動をつかさどる,体内時計の遺伝子も同定されつつあります。

季節変動も当然あります。血圧は夏と冬では6mmHgの差があります。さらに,冬の早朝は当然寒く,交感神経は寒さの刺激で緊張し,血管や心臓に強く作用する可能性があります。冬の早朝の運動はさらに危険です。冬には早朝の運動はやめて,暖かくなる午後や,夕方夜間に行うのが良いのです。どうしても朝というなら,10時までは待ったほうが良いでしょう。あまりお薦め出来ませんが。

排便時にも血圧はかなり上がりますので,冬のトイレの暖房も重要です。起床直後より遅らしたほうが血圧には安全です。

英語のBreakfastとは良くできた単語です。fast=絶食をbreak=破ることです。つまり,起床時は6時間以上絶食だったということです。寝ている間水分補給は行われていないのです。このため,軽度脱水状態にあると考えられ,血液は濃く粘っこくなっているのです。つまり,詰まりやすい状態です。さらに運動して脱水状態を増強すればいっそう心筋梗塞,脳硬塞を起こしやすくなるのです。危険なのはあたりまえです。寒さの刺激が加わればもっと危険です。 はっきりとした証拠があるわけではないのですが,ごく小さな血管が少しずつ詰まればボケが増えるかもしれません。運動後に朝の一服とたばこを吸えば,あの世はすぐそこです。

これから考えれば,朝風呂も危険です。脱水を助長するからです。関東人は熱い風呂が好きなのを関西人は馬鹿にしていますが,理由のあることです。脱水にさらに熱の刺激による交感神経の緊張から,血管系の死亡や半身マヒなど,わざわざ増やしているからです。風呂はぬるいのが一番です。ぬるいと副交感神経が刺激されリラックスします。もちろん,夜でも同じことです。

毎日の運動や朝風呂を,日課だの習慣だなどと,しんどいときもがんばっては寿命をわざわざ縮めているようなものです。朝食前の一汗など愚の骨頂です。早くエネルギーと水分を体に補給したほうが良いでしょう。

さらに,お年寄りには危険が待ち構えています。としをとると色々な感覚も鈍くなってきます。脱水状態を感知する脳の浸透圧センサーなども同様で,喉の渇きの感覚もにぶくなっています。若い女性でも,トイレにいくのが面倒だとか,異性の前で恥ずかしいとかで,辛抱する習慣が出来ている人は,同様に,喉の渇きに鈍くなっている場合があります。いずれも,血液の粘度があがって脳硬塞や心筋梗塞の原因になりえます。腎臓にも負担をかけます。濃い尿の方がたくさん仕事をする必要があります。

激しい運動は寿命を縮めるのが知られています。普通の人に比べ,体育教師は寿命が短いといわれていますし,オリンピックなどの一流選手も案外長生きする人が少ないものです。通勤などで歩行を増やすなど,日常生活の中に歩行や階段昇降を組み入れるのが理想です。健康のためには週2回の30分位の軽い運動で十分だという報告もみられます。私の医院では,年寄りには近くのデパートへ買い物に行くよう薦めています。暖冷房の効いた環境を結構歩き回るからです。流行などの知的刺激も受け,ぼけ防止にも少しは効果があります。

朝起きれば,まず暖かい飲み物で水分を補給し,午前中は読書や勉強でもして頭を使うのが医学的にはおすすめです。さっさと朝食もとったほうが良いでしょう。排便はしばらくしてから,あたたかいトイレで無理をせず行うのが理想です。汗をかいて運動するのとは正反対です。

Home