少年犯罪報道の深層心理と社会病理


  

 

 

 


何を凶悪化と呼ぶのかは、恣意的であり定義はできません。そこで、殺人と強姦を凶悪と考えるとしましょう。(こういう定義を考えるのも、マスコミは苦手で,感情的です。)

少年による殺人事件
昭和25年 369
30年    345
40年    370
50年    95
60年   100
平成元年 118
5年    75
10年   117

強姦は昭和34年がピークで4362件、平成9年は409件となんと10分の1になっているのです。

マスコミが、凶悪事件の少なかった時代の法律が凶悪事件を助長しているなどというのは、まったくのでたらめに過ぎないのが理解できます。

マスコミは、凶悪事件が増加しているから少年には厳罰を科すようにと、騒いでいましたが、まったく根拠のないことなのです。

しかし、事実に反していても、「少年の凶悪事件」「少年犯罪の凶悪化」報道は続くばかりで、マスコミでの大騒ぎはまだまだ減少しないでしょう。

彼らには報道しなければならない必然性があるのです。なぜなら、マスコミ自身が理解していない深層心理的要因があるからです。

20世紀の最大の天才医師の一人に、フロイトがいます。そのすべてを性で理解するとか、精神分析というのはすたれていますが、それでも彼の提唱した「無意識の世界」、そこから本人も気づいていない心理的欲求、心理的圧力という概念は画期的なものなのです。

つまり、事件一般の報道は「真理を追究する」「社会正義のため」「大衆を啓蒙する」などの仮面をかぶってはいても、実は人間の暗い側面の「恐怖」「不安」「責任のがれ」「ひがみ」「劣等感」等の心理的圧力の回避から出ていることも多いのです。この方が、むしろ真相に近いのです。少年事件の性格が以前と急激に変わったのではないのです。変わったのは、マスコミの深層心理の方なのです。

大量殺人、猟奇殺人等、理解しにくい事件が起こると「恐怖」つまり「深層心理的不安」が生じます。人間は必ず「心理的不安」を除去しようとします。これが、繰り返し同様の事件を報道し分析するという、真の心理学的動機なのです。

ダイオキシンの日本の異常な過熱、でたらめ報道も同様です。「環境ホルモン」という新しい概念と、身近に存在する目に見えない猛毒、遺伝子かく乱などの恐怖が、マスコミの強い「心理的不安」をかきたてたから、あれほど熱心に報道できたのです。正体が知れたら、まったくといっていいほど報道されないのです。不安が縮小したからです。

タバコの害は理性的にはマスコミは理解できるのですが、認めると個人自身の責任を認めなくてはならなくなります。周囲に対する加害者責任もあります。深層心理が、このタバコに対する不安に直面するのを避けようとします。不安が顕在化するのは心理的に困るのです。

このため、母親や周囲がタバコを吸うと子供の犯罪が増加するという科学的に証明済みの事実は、ほとんど報道されないのです。報道されても小さく片隅に追いやられるのは、マスコミの深層心理(不安)の反映なのです。

同様に、タバコを吸うと精子に異常が出る、配偶者のガンが増える、子供のガン抑制遺伝子を破壊して子供のガンが増える、アルコールを飲むと胎児の脳の発達異常をきたすなど、大人や自身の加害者責任が生じる現実には目を向けたくないので、ほとんど報道されないのです。不安がかえって増幅するからです。不安から逃避して生きていたいのです。

タバコの害を報道すると、自分たちも恐ろしい現実に直面して不安が増幅するので報道したくありませんが、禁煙関係なら不安に直面せずに報道できるから、紙面に載りやすいのです。加害者責任も顕在化しません。これが、タバコの害が直接報道されにくい最大の理由です。禁煙報道なら、喫煙者が周囲への加害者であることは忘れさられ、一所懸命に努力するタバコの被害者へと変身できるのです。心理的に楽なのです。しかも、禁煙報道は責任を果たしたような気分になれるという深層心理的報酬(利益)さえあります。

官も民も、日本人は厳しい現実に直面するのはできるだけ避けて、先延ばしにして安心するのが得意です。タバコの警告文は日本が一番ゆるやかです。

逆に、赤ワインのポリフェノールは、飲酒の害という自身の心理的不安を軽減して心地よいから、飽きるほど連日マスコミは報道したくなったのです。

冷静に事実関係を検証する必要はないのです。心理的に楽であればよいのです。

連日「・・・を食べて健康になろう。」「・・・をすれば健康になれる。」というばか番組を飽きもせず流しているのも、根本は同じです。健康を守るには、多くの知恵とたゆまぬ努力が必要なのですが、何かひとつの行いにより「健康に対する漠然とした不安感」  「日頃の不健康な生活習慣に対する不安」をすべて帳消しにしたいという、深層心理が活躍しているのです。不健康な生活をしている者の、不安感の反映なのです。なぜ報道したくなるかを、常に考える必要があります。

子供たちに本当に与えなければならないのは、タバコの害の具体的情報なのですが、倫理観のないマスコミにそれを求めても無理なのです。まったくといっていいほど報道されません。自身の心理的不安が増すからです。

オウム真理教の異常性や神戸の猟奇殺人等の社会的背景が、殺人事件に対する恐怖心を助長した時代背景がありますし、思春期の不安定な心理が殺人などの背景にあるのも事実です。これらが決定的に不安心理を増幅しました。正体が判明しにくいもの、理解しにくい恐怖に対して、不安は生じるのです。

単純な頭脳は物事を「単純な原因と結果」にしたがります。不安を除去するためには、原因を求めなくてはなりません。原因が解らないと対策が立てられず、不安が除去されないからです。凶悪少年犯罪は特殊だとみなされますから、一般人と無関係な原因があるはずだということになります。一般的な青年期の問題では困ります、自身の子や孫にかかわるような原因では、不安は解消されません。かえって、不安になるばかりです。

さらに、思春期で反抗期、自我の確立期の少年は扱いにくいもので、自分の子や孫でも理解しにくいという不安もありますから、自分にかかわってくるような原因では困ります。

理解できる原因のある事件なら、繰り返して報道する必要はありません。金銭的背景、職業上の悩み、重大なうらみ等は少年には当てはまりません。少年の犯罪で特殊要因といえば、家庭の問題です。特殊な家庭であるから、事件が起こるとすれば、一般人は無関係でいられます。不安解消には都合がよいのです。このため、心理的に少年の背景、特に家庭環境を詳しく報道しなければならなくなるのです。どうしても「特殊な家庭環境」や「特殊な母親」を発見しないと納得できません。不安を解消するためには、一般人と異なっていなければならないからです。強迫観念でさえあるのです。

現代の家庭では、父親の存在感は薄くなっています。家庭の問題は、すなわち、母親の育て方、母親の愛情不足が原因となります。マスコミの結論とはこんなところです。これなら、記者や一般人の不安感は解消されるのです。心理的安定が得られるのです。

最近の犯罪者の母親もこれに気づいていて、すぐに被害者を訪問して謝罪します。そうでないと、マスコミの魔女狩りに遭います。マスコミはそのほうがセンセーショナルで都合がよいでしょう。「人権」「社会正義」を唱えるマスコミも、中世の魔女狩りの心理と何ら変わりはありません。理解できない者を排除しようという心理が魔女狩りです。

もちろん、「原因」が解れば、次は対策を立てなければ「心理的不安」は解消されません。そこで持ち出してきたのが、「古い時代の法律を改正して、少年に厳罰を科せ」という、お手軽な解決法です。一応、心理的不安解消になります。実際効果があるかどうかとか、科学的・統計的にはどうかというのはどうでもよいことです。不安の解消が目的だからです。

反対でもしようものなら、「おまえの娘が強姦の上殺されたらどうする。」などの、脅迫的言動が待っています。理性的に効果を探ろうという専門家の意見さえ無視されます。

これくらいマスコミの背景を理解していないと、マスコミの報道に振り回されてしまいます。衆愚政治の第一歩です。また、いいかげんな健康情報に振り回されることにもなります。

少数者の排斥・差別は、中世の魔女狩りの心理的背景と変わりはありません。大衆心理などは中世から進歩していないのかもしれません。報道する側はこれらを理解せず、むしろ大衆を啓蒙しているつもりなのだから困ったものです。社会を批判していると、一段高い位置にいるような気分になり、偉くなったような錯覚さえ憶えるのですが、足元は暗いのです。

母親に愛されている、無条件に受け入れてくれる、信頼されているという感覚は人間の発達にとって重要です。これらが与えられた子が、間違って非行に走っても立ち直る可能性が高いのも事実です。しかし、愛情たっぷりの子供が絶対残虐事件を起こさないという保証はありません。

私が考える生物学的背景は以下のようですが、特に現在増加しているということはありません。
ひとつには、思春期のホルモン環境があります。思春期の女子の生理は安定せず、肉体的不快感とともに、精神的いらいらをきたす子もいます。男子ははっきりした症状がないのですが、体内のホルモンバランスは嵐のようになっており、いらいらもつのろうというものです。

自己の確立期でもあり、そのための反抗期もあります。思春期は難しいものです。これは昔から同じことです。

大量殺人などは、恐怖を感じない人格、冷酷な人格が必要です。こういう人格は一万人に一人くらい出現するのは当然です。遺伝子の多様性のひとつです。こういう異常人格も時代や社会が必要としていたと考えます。戦争などの場面では、恐怖を感じない冷酷な人格のほうが冷静に判断でき、功績があげられます。英雄になれるのです。アンドロゲンの多い英雄は色を好むのです。こういう人間のほうがむしろ子孫を多く残せた可能性が高いのです。17歳は150万人もいるのです。

連続殺人には倒錯した性欲求が背景であることが多いものです。男性ホルモンは攻撃性と性衝動をきたしますから、連続殺人の犯人はたいてい男性です。女性ホルモンは攻撃性を減じますから、女性の猟奇連続殺人はまれです。あっても、恨みなどの了解可能な原因があります。性ホルモンが活動してくるのが思春期です。異常人格は矯正できない場合もあります。

これらの説明は、なぜ小学生には犯罪が少ないかの説明にもなります。

近くで中学生がタバコを吸い、深夜まで騒ぐので警察に対策を要請しましたが、無視です。派出所の警官など「タバコくらいで連絡しないでくれ。シンナーなら来ます。」という始末です。

警察の言い分はもっと大きな事件で忙しいということでしょう。確かに官僚化した警察組織は読まれもしない報告書を書くのに忙しいようです。実際少年犯罪では窃盗だけは増加しています。万引きひったくりなどですが、タバコなどにはかまっていられないという態度です。

世界的に見ると、急激に安全性が増した都市があります。ニューヨークです。ジュリアーニ市長は「Broken window theory」を提唱して実績をあげました。

ニューヨーク市警は窓に石を投げて割るような少年を厳重に取り締まったのです。日本とはまったく逆なのです。

窓を割っても、軽微な事件だからと警察も教師も無視するから、次はシンナーや覚せい剤です。さらに万引き、引ったくり、けんかと発展していきます。これを抑えるには、最初の窓を割る少年を指導していけば成果が上がるのです。ニューヨークは全米でも安全な都市に変貌したのです。

ところが日本の警察は逆なのです。窓を割る少年を指導して安全な地域を作り上げても、官僚化した警察組織は仕事の成果とはみなしません。ましてや、マスコミは取り上げもしません。派手な事件ばかり取り上げます。悪い少年も、報道されるような派手な事件にあこがれます。いわば、ぼやを放置して燃え上がるのを待ってから消火して、成果を誇っているようなものなのです。何も起こらないのが理想なのですが、マスコミに任せると少年事件報道のようになってしまいます。第一線の地道な努力など報道も評価もされません。(被害者意識からいえば、医者も地道な努力は報道されず、金儲けやでたらめばかりと非難されているのです。蛇足です。)

神奈川県警上層部の共産党盗聴を免罪するから、少々の違法は許されると第一線の警官が思うのと似ています。神奈川県警の腐敗の原点です。少年犯罪と似た構造があります。

さらに公務員の人員削減の影響は警察も例外ではありません。防衛庁が「侵略の脅威」を訴えて、予算を獲得しようとするのと同じように、警察も「少年事件の深刻化」を訴えるのです。警察の不祥事から目をそらすために、少年犯罪の凶悪化を言い立てる警察の姿もあります。ところが、マスコミは(自身に利害のないことには)官僚の意見はいつも正しいと、無批判に垂れ流すのです。こうして、マスコミの協力で世論は操作されているのです。事実関係さえねじまげて伝えるのです。マスコミと、官僚化した警察が事態を悪化させているのです。復讐心や悪意の増幅です。

脅威は言い立てなければなりません。国際平和が実現しては、軍人は困るのです。実際、関東軍は日中戦争を作り出したのです。
レイプが10分の1になったら、警察は誇っていいものなのですが、実際は逆です。安全な社会が実現していては困るのです。少年犯罪が減少しているのが知られては困るのです。マスコミはそれさえ見抜けないのです。時代とともに緩やかに犯罪も変化しているでしょうが、警察はもっと凶悪化を言いつづける必要があるのです。深層心理なのか、意識的・計画的かは知りませんが。


人間は「原因があるから、結果が生じる。」と考えるものですが、実は深層心理学的には「重大な結果が存在するから、原因を必要とする。」のが正しいのです。少年犯罪の「原因としての家庭と母親」が必要なのです。その心理がゆがんだ社会をさらに作り出すのです。

こうして、スケープゴートが生まれてくるのです。中世の魔女狩りがそうです。悪徳商法なら「先祖のたたり」「水子の霊」ですし、ヒットラーのユダヤ人、関東大震災で気分の悪くなった人の原因は「朝鮮人が井戸に毒をまいている。」のです。人間性の欠如は「コンピューターの普及」で、おたく族の出現は「コンピューターゲームのやりすぎ」、つい最近まで凶悪犯罪の増加は「インターネットの普及」や「携帯電話」でした。新聞の結論など、こんなところです。日教組は一時何でも「社会が悪い」でしたし、右翼は「占領憲法が社会悪の根源」「アメリカ文化の侵略」です。少年事件は「ダイオキシン」が原因であるとの、低能マスコミさえ出る始末です。

これらはすべて、自分とは「無関係な原因」です。自身には責任がないので、心理的には安定が得られます。さらに、非難さえしておれば、努力の必要もないので、叫んでおれば良く、心理的に楽なのです。しかも、紋切り型の固定した思考パターンは思考の節約にもなり、深く考えなくてもよいので楽なのです。

人間は安易なものが大好きですし、マスコミはまさにそうなのです。安易な原因が大好きなのです。

官僚や権力者はこれらをうまく使って、マスコミを利用しています。安易な原因の判明は、困難な努力を行う必要性がなくなるからです。こうして、真の対策は先送りできるのです。どうせおろかな大衆は、すぐに事件を忘れるのです。

マスコミは、官僚・権力者や人間心理の暗い面を理解もせず、スケープゴートを攻撃し、理性的で社会正義を行っていると自身を錯覚しています。さらに、「大衆を啓蒙している」とまで思い上がってしまうのです。

こういう風潮を利用して、政党まで犯罪少年の名前と顔写真を出せと言い出す始末ですが、マスコミや大衆迎合の低レベルを露呈しているようなものです。(政治家のほうがマスコミよりましだと思っていたのですが。)

最も急激に変化したのは、マスコミの連中の無意識の不安感なのです。オーム真理教が影響したのです。聖書の時代から愚者の目の中の梁は自分では見えないものなのです。事実はむしろ改善しているのです。少年犯罪や母親が急激に変化したのではないのです。
もうひとつ変化しないのは、自分は安全なところからスケープゴートを攻撃することにより不安感を消し去り、結果として本質から目をそらす愚かな心理と、それを利用する官僚や独裁者・権力者です。

2000.09.01
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初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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