夜間血圧の重要性


  

 

 

 


血圧を医師が測り、最高血圧が160mmHg以上であれば死亡率が上昇するのは、多くの科学的データがあり、確立された話です。最近はもっと厳重に140以下が望ましいとされてきています。

最高血圧が140以下で、睡眠中の夜間に血圧が100くらいに下がるディッパーと、昼間と同じ140の血圧が続くノンディッパーが区別できることがわかってきました。

新聞記者の方が来られて、ディッパー(dipper)とノンディッパーの話をしました。機械も見せて、重要性を力説したので、記事に、このホームページに詳しく出ていると掲載されました。

私も、書いたような気になっていたのですが、血圧の古い話はあっても、新しい知見は記載していませんでしたので、あわてて書いています。

夜間血圧は京都の開業医と、東北大の公衆衛生のドクターが熱心に研究されています。京都の開業医の方は1000例以上のデータを集められ、夜間の血圧が昼間に比べて下がらない患者さんは、下がる患者さんにくらべて死亡率が非常に高いことを示され、単行本も発行されています。血圧はほとんど同じで、昼間だけ比較しても、その死亡率の大きな差は予測不能です。東北大のドクターも興味を強く示され、同じような傾向を認め、重要性を力説されています。日本はこのような測定器を小さく作るのが得意で海外より進んでいるのかもしれません。

まだ、夜間血圧を測定するのは面倒です。その重要性をいくら厚生省に説明しても、国民の健康より財務省のご機嫌をうかがうのが重要と考えている厚生省は、保険で測定料を認めませんので、測定すればするほど赤字になり、普及も困難です。死亡率が高いグループを選別できれば、医療費もかえって安くつくのにです。役人は数年したら部署を変わり、それまでの間ことを荒立てず、次に引き継いで天下りを探せばよいわけで、目先の医療費の増大が国民にとって結局医療費引き下げにつながることなど、どうでもよいわけです。

薬で血圧が下がりすぎた場合、ふらつく人がいます。医師も素人も、これらから、血圧を下げすぎると脳梗塞が増加すると信じてきました。受け入れやすい話だからです。

京都第二赤十字病院の山本部長も24時間血圧を熱心に研究されています。その厳密なデータを見ると、血圧は下がれば下がるほど脳梗塞が減少するというデータがはっきりしました。夜間就寝中の血圧も下がるほど脳梗塞は減るのです。多くの医師の考えてきた常識と正反対です。科学的に非常に重要なデータが出たのです。(もちろん一部の頚動脈に重症の狭窄がある場合などのごく例外は別です。)

こういうことが、科学の面白さなのです。血圧を下げすぎると脳梗塞が増えるという迷信をさかのぼって行くと、国際的にもはっきりした科学的根拠はありません。どこかのえらい先生が、根拠もなく推測で教科書に書いていたくらいのことだけなのです。

馬鹿な年寄りなど「血圧の薬をのむとボケた。」などというのがいますが、科学的根拠はありません。脳梗塞が減るのですから、ボケ防止になるのです。たまたま早くボケた人が薬を飲んでいただけなのですが、科学的思考のできない人は原因と結果を逆にして屁理屈をこねることがよくあります。多数を調べないと軽々にものはいえないのですが、マスコミにもこの手の記事がよくあります。ダイオキシンで少年犯罪が増えるの、母親が悪いから少年犯罪が増えるなどのでたらめ記事です。

経済的に引き合わないものは普及しませんから、夜間血圧を測定してくれる医師は少ないでしょう。測定してもらえれば、もうけものです。

この、夜間血圧は歴史が極めて浅いので、その意義が十分解明されてはいません。推論としては、硬くなりすぎた動脈は弾力性がないためであろうとか、交感神経の緊張が夜間もとけないので、死亡率があがるのだろうくらいのところです。

理屈ととりもちはどこにでもつきます。もっと実用的で重要なのは、ノンディッパーをディッパーにして、死亡率を下げることですが、その方法もわかりません。あまりに、知見が新しすぎてプロでも利用方法は把握できていないのです。

あまりに夜間に血圧の高いひとは夕方や寝る前に薬を追加する場合があります。もうひとつ解っていることは、まじめに薬を長期に飲んでいると、全例ではないのですがノンディッパーからディッパーに変化することがあるということです。

学会より高血圧の治療指針が出ました。しかし、指針にはこれらの事実は反映されていません。指針やマニュアルは、科学の世界では、発行した時点で時代遅れの場合もあるのです。高齢者も指針以上に血圧を下げるべきだと私は考えています。

医者と親のいうことは聞いておくべきです。その人のために良かれと思って忠告しているのです。朝日の新聞記者などにかかると、医者は悪徳で、自身の金儲けのために長期に薬を出すのだろうと考えるようですが、情けないものです。下劣な人間ほど、自分に引き寄せて考えてしまうからです。

血圧など、薬で簡単に下げられます。ほとんど解決済みと素人は考えがちです。しかし、現実は逆で、勉強すればするほど次々と課題が浮かび上がってきます。マニュアルや指針で、簡単に解決できるとばかり素人は考えがちですが、そうではありません。料理でもプロとアマの違いは明白で、簡単な料理ほど奥深く、かえって技量の差が歴然とするようなものです。

治療基準や指針にほんの少し外れただけでも、悪徳医療のように書く朝日新聞のような連中もいますが、現実はそんなに単純ではありません。これからも、マスコミの低俗な解説は多く出るでしょうが、信じてはいけません。

これらからも、なにかひとつ「健康法」を行えばすべて解決式の、低俗マスコミのお手軽健康法など馬鹿馬鹿しいのが理解できます。

もちろん、過去の降圧剤療法が無効なわけではありません。延命効果は十分すぎるほど証明されています。それでも危険な人を少しは鑑別できるようになったにすぎません。こつこつ、まじめに治療を積み重ねるしかありません。その重要性が減じるものではありません。

2001.02.13
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初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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