家庭血圧計の大きな誤解   

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家庭血圧計で測定しても,医師の誰もが認める判定基準がありません。

これから,記載方法は最高血圧150,最低血圧85なら 150/85 と記載します。

医師や看護婦の前で測った血圧と,家庭で測った血圧では20から30違います。家庭で150/86ならば医師の測った血圧に換算すると 180/100 ということもあります。これは危険なレベルの血圧で,脳出血や心筋梗塞の危険因子です。自己判断で放置すると,後悔しなければならなくなる怖れがあります。血圧計のパンフレットに160以上が高血圧と書いてあるので,素人判断して医師に相談しない人が増えていますが,非常に危険なことです。

血圧計のパンフレットには WHO の高血圧の基準が示されていますが,これはあくまで医師が測定して判定するための基準です。しろうとが勝手に家や会社で測定して,その結果を判定する基準などないといって良いのです。(ちらほら報告がないわけではないですが)

大新聞のA新聞など「家庭血圧計は有用な情報源」などという記事を大きく載せています。読んでみると大学講師某が「非常に有用な情報源で,死亡例と家庭血圧計は相関が認められる。」などとのインタビューを根拠にしています。嘘とも思いませんが,大学にいれば自分の研究はさも重大であると発表していかないといけないのは仕方がありません。そういう宣伝を安易に信じて記事を書く記者は素人だから仕方ありませんが,学会で発表されて,ほとんどの医師が信じていたことが,何年にもわったて統計をとってみると,まったく逆であったということも多いのです。新聞など即座に信じてはいけません。例を挙げると,非常に良い不整脈の薬がでたので大いに使われていましたが,カナダで大規模な統計をとってみると逆に死亡率が上昇しているのがわかり,ほとんど使われなくなりました。

以下に話題を提供しますので,自分の頭で考えてください。

1.重複しますが自分で測った血圧は,医師や看護婦が測った血圧とは大きく違う場合があります。 良く知られている現象は,医師が測ると患者は若干緊張するので,家庭より医師が測るほうが高くでやすいということです。

2.自分で測った血圧が 135/80 以上だと死亡率は3倍になるとの報告があります。私もこれくらいが妥当だと,現在の時点では考えています。正常値は多分125/75未満でしょう。

3.WHOの基準はどうやって決まったかを考えてみましょう。これには50年位の歴史があります。その測定方法は水銀血圧計を用いて,医師や看護婦のいるところに出向いて,15分位安静にして測ったものです。(水銀もいいかげんなもので,問題があると考えていますが,ここでは論じません)その膨大な結果を統計処理して,死亡率の上昇がみられる血圧を高血圧と定義しています。しかし,アメリカの統計ですから,心筋梗塞が死亡原因の多くを占め,昔の日本は脳出血が多かったことも考慮する必要があります。

4.家庭血圧計ができたのは最近です。歴史もなく統計もほとんどありません。医師の面前で測定させると,測り方が間違っている場合も結構あります。2〜3年たった血圧計の圧力を水銀血圧計で測ってみると20や30狂っているときも多いです。

5.高血圧の定義がはっきりしたとして,その血圧を下げると死亡率が低下するかどうかは別の問題です。このことがはっきりしてきたのはごく最近です。たとえば,短時間作用型のカルシュウム拮抗剤を用いた場合,死亡率はかえって上昇しました。利尿剤単独でもあまり効果はありません。ベータブロッカーは高齢者には使いにくい薬ですが,死亡率を低下させます。ACE阻害剤も死亡率を低下させます。

6.関西の某有名循環器専門病院の外科で,忙しいので血圧を測りもせず降圧薬をだされた患者さんが,私の外来にいます。専門病院でもこんなことです。医師を選ばないと危険という例です。急に血圧を下げると脳硬塞が起こりやすいとも考えられます。たちくらみを起こし怪我をする可能性もあります。低すぎれば当然何らかの害が考えられます。 先ほどの自分ではかる家庭血圧の暫定基準のデータでも最高血圧が120以下では徐々に死亡率が上昇します。下げすぎも体に悪いと考えられます。素人の生兵法は大怪我のもとです。専門家にご相談下さい。

7. 手首血圧計や,指先血圧計なるものが存在します。これは,ひじではかる血圧と関連がないのが証明されています。無責任な血圧を商売道具にしてもうけている,大電機会社のナショナルやオムロンに対して怒りを禁じえません。手首で血圧を計ると,長掌手腱がじゃまをして,血管が十分圧迫されません。完全に圧迫された時に測定するのが,本来の血圧であり,これだけでも正確でないといえます。

8.合併症や年齢,性別を考慮して薬をだしています。高血圧を素人判断するのは危険なのはいうまでもありません。さらに,奥さんなどの薬をわけてもらって飲んで,血圧を下げるなど事故のもとです。

9.家庭で測った安静時血圧を表にして持ってきてもらうと,医師は非常に参考になります。

10.よくある例ですが,自分で測った血圧を気にしすぎて,ノイローゼ状態になり,かえって血圧が上がる人がいます。一つの参考値として医師に情報を提供する位の,ゆったりした気分でいてください。数字に振り回されてはなんにもなりません。

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