イギリスの医療難民


  

 

 

 


医療費の増大が社会問題化しています。マスコミは医者が暴利をむさぼるのが原因だとばかり責め立てます。医者の悪口を言っておれば胸がすくようです。

医者の暴利が原因なら、日本特有の問題で、権利意識の高い欧米先進国では医療費の高騰は問題にならないはずです。逆に、所得格差の大きい発展途上国のほうが医療費高騰が問題にならなくてはいけないのに、事実は逆です。こういうグローバルな視点のないのが日本マスコミの情けないところです。まあ、欧米のマスコミも程度の悪いのはいますが。

低級な日本のマスコミだけを情報源にしていると、「医師が医療費をくいものにするから社会保障費が増大する。」という印象になってしまいます。しかし、イギリスもフランスも同様なのです。単純なことです。少子化と人口の高齢化が社会保障費の増大の最大の要因だからです。発展途上国は若年人口も増大しているから、社会保障費の増大は問題になりません。アメリカも、移民を中心に若年層が増大しています。このホームページでも何度も指摘しているように、誰かを犯人にして糾弾しないと気のすまない、低俗なマスコミの魔女狩りの一つの例です。

もちろん、少子高齢化は早くから解っていたことですが、それにほとんど対策をとらず、何でも先送りにして責任逃れをしてきた官僚がもっとも重罪に思えます。さらに、それを追認してきた政治も同罪です。そして、官僚の予想をさらに上回るペースで少子化が進んだのが、事態をさらに悪化させています。

イギリスとフランスは海底トンネルで結ばれています。その両端で、互いの国の住民が多数移住しています。

サッチャーは自由競争主義者で、福祉を大胆に切り捨ててきました。国家医療費は総額が決められ、病院のベッドの数も大幅に制限されています。低負担・低福祉の国です。医師や看護婦の賃金は低く、看護婦はすぐに辞めます。看護婦の確保は難しいので、少ないベッドさえも有効に利用できず、いつも入院待ちです。医師は責任上、低賃金でも辞めるわけにはいかないので、残っていると報道されています。イギリスでは、ガンでさえ手遅れになると社会問題化しています。 健康に不安のあるイギリス人退職者を中心に、ドーバー海峡のフランス側にイギリス人が大量移住して、イギリス人村を作っているのです。フランスなら、安い金で、早く公的病院に受診できます。イギリスの、低福祉・低医療を嫌っての移住なのです。

もう亡くなりましたが、京大に高坂という国際政治学者がおられました。彼の言うことには、「結局、高負担・高福祉の国か、低負担・低福祉の国しかない。」というのが絶対的真理だそうです。歴史的にみてもそうだそうです。

低負担・高福祉をうたう政党は世の中にたくさんあります。しかし、それは誤魔化しにすぎません。仮にそんなことができたとしても、結局は国債などで将来にまわしているだけです。

ところで、低負担・低福祉の恩恵にあずかる人も出てきます。
フランスは高負担・高福祉の国です。事業税などが高く、企業の税負担が高いのです。このため、名目だけでも、ドーバー海峡のイギリス側に本社を移してしまいます。事業の主体はフランスです。こうして、金持ちと企業はドーバー海峡のイギリス側に集まるのです。もちろん、金持ちは金にものを言わせ、イギリスで高い金を払って、私的病院に通院するのです。はじめから、社会保障はあてにしていません。税金を払わないほうが重要です。低福祉でよいのです。自由主義競争社会の合理的選択です。

朝日新聞もずいぶん長く少子化問題を取り上げてきました。女性記者を中心に、保育所の問題・働く女性の環境などを原因としてきましたが、視野が狭いから、こんな単純な結論しか出せないのです。託児所を充実し、働く女性の環境が最大限優遇されている北欧先進国でも少子化・高齢化は止まりません。逆に環境の悪い、アジア・インド・アフリカこそ多産です。
費用のかかる子供を選ぶより、高収入の維持とか、レジャーに費用をかけ、安楽な生活を選ぶのは、高学歴の女性の合理主義からは仕方のないことです。
女性の高学歴化・社会進出・共働きの増加など、女性が進出すればするほど、女性は子供を産まなくなるのです。世界的傾向を読み取れないマスコミに任せると、とんでもない結論が出てくるよい例です。マスコミなど、自分たちの不平不満を記事にしているだけで、根本的なものは何も見えていないのです。朝日の一年以上にわたる特集の少子化と医療問題は何も建設的な意見をだせず、成果はまったくありません。

歴史的・世界的な視点にたって、少子化対策を立案しましょう。
まず、女は男より劣っているとして、大学進学を制限します。共働きは税制的にも差別し、女性の社会進出をさせません。託児所の補助金を廃止し、金持ちしか利用できないようにします。家父長制を復活させ、男を産まないと不利になる社会を実現します。
高齢者医療を制限し、老人には早く死んでもらうとともに、乳児の医療費を高額にし、乳児死亡率を上昇させます。
こうすれば、女性は将来に不安を覚え、たくさん子供を残そうとします。
どこか論理的に破綻しているでしょうか?世界の現実はこうなのです。

少子化は予想されたことであり、有効な対策をとらなかった厚生官僚が、社会保障費の増大に最大の責任があるのですが、マスコミも官僚もまるで天災が来るような論評で、知らぬ顔です。挙句に、託児所の充実で本質をそらしてしまうのです。もちろん、官僚の予測以上に少子化が進んだのも悪化の原因です。

近くの老人が無理やり○○老人会へ入会させられました。人数が減ると、市からの補助金がもらえなくなるからです。補助金目当てで、不要な会を作る傾向さえみられます。こんなのが、「福祉」政策なのです。

これは個人に限りません。健保組合もそうです。会社で組合を作れば、補助金がもらえ、剰余金は豪華な保養所などの建設にまわせます。「もらえるものは、もらわなければ損」が上から下までの、日本人の意識です。これは、高度成長期以前から行われてきました。バブルに踊る以前からの構造的問題に思えます。ばらまき行政の例です。

さて、話は変わりますが、「薬の消費が多いのは日本の医者が悪いためである」。「薬を使うほど副作用で不健康になる」。と、マスコミは主張します。

一見合理的そうで反論が難しいからです。しかし、科学的論評に耐えうるものではありません。

単純な頭脳だからこそ、検証もせず論じられるのです。マスコミを信じるのは愚かなことです。

フランスは薬の消費量が世界一だそうです。抗生物質の消費量はドイツの2.5倍。血管拡張薬にいたってはイギリスの19倍。精神安定剤・睡眠薬はEU平均の3倍です。さらに、処方箋なしで買える一般薬の消費も多いようです。薬好きといわれる日本を上回ります。低級マスコミなら、「薬の副作用だらけの国フランス」「副作用で不健康なフランス」とでもなるはずです。

ところで、ヨーロッパで一番寿命の長い国はフランスなのです。女性の寿命は日本についで世界第二位となったそうです。

日本とフランスに共通しているのは、国民皆保険制度が充実している事です。

ちなみに、フランスでは注射をしてもらうにも、一度自分で薬局に薬を取りにいかなくてはいけないくらい、医薬分業は徹底しています。フランスでは、注射を打ってもらうにも、薬局と医院を往復しなければいけないくらい体力が無いと医師にかかれないといいます。完全医薬分業で、薬から医師は利益をまったく得られなくても、薬品消費量は類を見ません。 フランスも高齢化で社会保障費の増大で医師の収入が減りストライキなども見られます。

日本の総医療費は対GDP比でイギリスと同じくらいですが、非常に充実しています。

日本の診察代はアメリカの5分の一、韓国の二分の一です。フランスの医師も日本の5倍以上とっているようです。パリ在住の日本人が、一万円以上診察代を取られたといいます。

悪徳な日本の医師が社会保障費を食い物しているにしては低すぎます。

税金が安く、高収入の企業経営者が殺到するイギリスでは満足な医療が受けられず、少し税金の負担があるが、そこそこの医療が受けられるフランスと、どちらを選びますか。

誤診列島などという本があります。アメリカ医療がいかにすばらしいか、日本の医療がいかに劣悪化かと論証している本です。特殊な医療ならアメリカが上かもしれませんが、一般人が接する医療は日本のほうがシステムとして優れているのです。 医師でもアメリカ医療を崇めるのがいますが、下の表を見れば、アメリカの医療を賛美する理由が理解できません。

日本の医療負担は、対GDP比では低く、フランス並に十分な医療と、薬を得られているのですが、マスコミの論証抜きの論理では、日本は悪徳医が多いようです。

  WHO

健康寿命

対GDP

医療費

乳児死亡率 平均寿命

平均寿命

日本 1位 18位 3.6人 77.1歳 84
フランス 3 5 4.9 74.6 82.2
イギリス 14 21 6.1 74.3 79.5
アメリカ 24 1 7.6 73.6 79.4

2000.06.01
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