インフルエンザについて


  

 

 

 


現場にいるものから見たトリインフルエンザについて述べます。

鳥インフルエンザが歴史上初めて人の直接感染が確認されたのは1997年の香港です。それまでは、教科書的には、豚に鳥とヒトのウイルスが同時感染し組換えが起こってからヒトに感染したと考えられていました。それまでにもあったが気づかないだけだったのか、検出法が無かっただけなのか、よくわかりません。

WHOではインフルエンザの人が鳥インフルエンザに重複感染し、新型インフルエンザに変化するのを恐れ、今あるインフルエンザワクチンの徹底を求めています。

アメリカ・ヨーロッパ・カナダ等で流行したのはH7型で、オランダで一人死者が出ました。
アジアのH5とは異なります。アメリカでも、東海岸から西海岸に広がるのは極めて短期間だったように思います。日本でも防げないでしょう。

鳥インフルエンザは、水鳥の腸でおとなしく共存しています。水鳥の糞に多量に排泄されます。鶏では死亡率が高まりますが、カラスやハト等には感染しません。しかし、川べりなどでカラスやハトが水鳥の糞を踏んで拡散させる可能性は大いにあります。腸管感染症ですから、最初は下痢が先行するのではないかと思います。獣医ではないので詳しくはありません。

鶏の感染の検査にヒト用の簡易検査キットが使われているようです。精密検査で否定されたりするのはこのためです。これは、現場の医師にとって朗報です。人間の検査で鳥インフルエンザも診断できる可能性が大だからです。

原則として、A型インフルエンザとして検出されるようですが、診断キット製造メーカーはH5に関しては保証外でしょう。メーカーによって検出感度はかなりの差があるとおもわれます。A型でH3でもH1でもないとH5という暫定診断が下されるようです。動物ですから、採血・血清検査の方が多用されているようです。

鶏のインフルエンザ用のワクチンは完成しています。香港では鶏にワクチンを義務付け、今年は鳥インフルエンザは発生していないようです。非常に良い方法です。しかし、日本政府はワクチンを禁止しています。発生を早期に検出し、閉鎖隔離を徹底させるためだそうです。京都の発生例を見ても、この政策は破綻しているようにも思えます。実験はできないので、優劣は歴史が判定するしかありません。3例も出たとなると、日本国内でウイルスは定住していると考えないといけません。上記のように、動物では血清の抗体検査が主流のようで、これがワクチン否定論につながるようです。人間では迅速性が要求されるので、血清抗体検査では間に合いません。動物も少しコストが高くても迅速検査にすればよいのではないかと思います。厚生労働省の意見は次の文に基づいてはいます。
Despite the uncertainties, experts fully agree that immediate culling of infected and exposed birds is the first line of defence for both the protection of human health and the reduction of further losses in the agricultural sector. Other measures, such as the vaccination of healthy flocks, may play a supportive role in some cases when undertaken in conjunction with measures for preventing further spread of infection. WHO has repeatedly stressed the need to ensure that culling is carried out in a way that does not fuel more human cases. and that vaccination of poultry should not lead to the dropping of vigilance or compromise other necessary control measures.

バンコクでは市長が徹底的処分に反対しているようです。バンコクでは闘鶏が盛んで、チャンピオンになれば高額で取引されるからです。自分の利益しか考えないような者は、医学の阻害要因です。経済至上主義・利益優先は許せません。バンコクを笑っていられません。京都の業者も損害を恐れて届を遅らせたのでしょう。似たようなものです。

SARS撲滅にはきわめて有能であったヴェトナムが、インフルエンザに関してはお手上げに近いのは、拡大の早さ・農村部での濃厚接触も考えられますが、鶏が経済的に価値があり、処分に対し隠した部分もあるのではないかと疑っています。経済至上主義の恐ろしさです。SARSは金銭面ではほとんど影響が無かったのです。日本で、経済的合理性さえあれば医療も大学も正しいという風潮には反対します。(3月2日ヴェトナムは30日間トリインフルエンザが出なかったので、収束宣言をしました。)

先日、ヒトのノイラミニダーゼ阻害薬が鶏にも効果があると報じられました。理論的には当然の結果です。

教科書的には、インフルエンザは五日以上激しい症状が続き重篤な症状です。解熱剤を使っても数時間で再上昇しつらいものです。
私も、一月の末に(インフルエンザでない)風邪を引きました。最初の二日は固形物が取れず、水分補給で過ごしました。一週間はつらかったのです。一方、インフルエンザの人は2日でほとんど症状は消えました。ノイラミニダーゼ阻害剤の偉大な成果です。インフルエンザのほうが今や楽な病気なのです。診断キットとノイラミニダーゼ阻害剤が十分あればの話です。また、数千円のキットや薬を苦も無く払える経済大国での話です。平均年収数千ドルの国民にはとても利用できません。金に任せて、日本は世界の生産量の7割くらいのノイラミニダーゼ阻害剤消費できる国だからです。

診断キットの検出率は95%程度とはいえ、私も感染早期の非典型例で誤診がありました。生物で100%はありえません。それでも、鳥インフルエンザは現場の医師にとって治療困難でも、診断困難でもないのです。少しは安心してください。診断キットとノイラミニダーゼ阻害剤が十分あればの話です。

それでも、土曜日の午後に発病したとか、連休・年始の悪条件や、弱いお年よりや子供を中心に、日本でも死者は当然出るでしょうが、他国に比較してきわめて大量というわけではないでしょう。

これらが簡単に利用できないタイやヴェトナムでは実際死者が出るのです。アフリカではもっと大きな被害が出るでしょう。気の毒なことです。

インフルエンザが世界的に大流行したとき、診断薬・治療薬を日本に優先的に回してもらえると思うのは大間違いです。アメリカでインフルエンザのワクチンが不足したときアメリカは輸出禁止にしました。カナダでさえ輸入できなかったのです。カナダでは大きな被害が出ました。現政権のブッシュではなかったのですが、このありさまです。自己利益追求・思い込みの激しい・戦闘的ブッシュではもっと露骨でしょう。

逆に朗報もあります。中外製薬はスイスのROCHに買収されてしまいました。このため、逆に中外製薬は日本でノイラミニダーゼ阻害剤を製造する計画があります。しかし、気の毒なのはタイやヴェトナムです。援助が必要でしょう。援助すれば、「情けは人のためならず」です。

ノイラミニダーゼ阻害剤が十分あれば、ワクチンはいらないと短絡する人が出てきますが、そうではありません。余りに乱用すると耐性菌が出る恐れがあります。ワクチンは最重要です。

マスコミでは、ワクチン開発には半年となっています。これは間違いです。当初の「もっとも最短で」という条件がいつのまにか落ちているのです。
昨年福建株がアメリカでも日本でも流行し、アメリカではパニックになりました。古いワクチンでも多少効くのでそれほど大問題ではありません。このため、アメリカでインフルエンザワクチンの取り合いになったのです。福建株はもっと前から検出されていたのです。ワクチン製造には素人ですから、詳細はわかりませんが、この株はずいぶん前から同定・採取されていたのですが、卵の中で上手く増殖せず、ワクチンの実用には間に合わなかったのです。H5でも同じだったら、2年くらいはワクチンができないことになります。最悪のシナリオがこれです。ワクチンが足らないので世界的に死者が多く、診断キット・ノイラミニダーゼ阻害剤が世界的に取り合い、禁輸になり国内でもパニックで取り合いになるというシナリオです。

ワクチン不要論を振りまいた連中がいました。それらの尻馬に乗り愚かなマスコミは小学生のインフルエンザ予防接種を廃止させました。これらの連中とマスコミは、今回のトリインフルエンザに関してどのように対処するのか、出てきて説明する責任があるでしょう。

愚かさは悪よりはるかに危険な善の敵である ボンヘッファー

仮に愚かなマスコミの楽観論が成就して、WHOの最短コースの半年でワクチンができたとしましょう。それでも、それは実験的に成立したものに過ぎません。全世界に十分の量が量産できるということとイコールではありません。さらに、薬は安全性を確認するということも必要です。
これらを考慮に入れず、ワクチンは半年で開発できるという、マスコミの流言にはあきれるばかりです。
よほど上手くいかないと、実現しない最良のシナリオです。

それでなくてもワクチンが早期に開発されないと、ノイラミニダーゼ阻害剤は高額で、所得の低い低開発国では多数の死者が予測されます。具体的にはアジアとアフリカ、南米での莫大な死者です。早期開発を祈るばかりです。日本さえよければいいものではありません。
そればかりか、ヒトで大流行すれば、突然変異も早くなります。

ノイラミニダーゼ阻害剤は高価なので、動物には使えません。しかし、安い薬は動物に大量に予防的に使われ耐性菌が出てくるのがいつもの結末です。バンコク市長や日本の養鶏業者のような経済至上主義者ならやりかねません。闘鶏のチャンピオン鶏なら数十万円するので、高価なノイラミニダーゼ阻害剤を使っても経済的に引き合うからです。これらから耐性菌が出現するのも最悪のシナリオのひとつです。養鶏・養豚・家畜の薬品使用を国家的に厳しく管理することが、人間の命を守るのに最も重要ですが、世界的にも管理はずさんで、金儲け主義の薬品業者と家畜取り扱い業者のしたい放題の場合が多いのです。

2004. 3. 1
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初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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ネットからの引用

感染した鶏の排せつ物を20度で保存した場合、1週間ウイルスが生存、さらに4度で30−35日生存したという報告がある。しかし、大量に鶏ふんを気道から吸い込む場面があるとは考えにくい。

大量死が始まったとされる前日の19日には、府南丹家畜保健衛生所の職員が実態調査に訪れていた。しかし鶏舎には入らず、事務所で現場責任者と面談し「異常なし」との回答を得て引き上げたという。

浅田農産
 1960年、兵庫県佐用町で創業。姫路市の本社工場のほか、佐用町、同県和田山町、京都府、岡山県に農場を持つ。175万羽の鶏を保有、独立系では業界トップクラスの規模。73年に法人化し、74年に本社を現在の姫路市豊富町に移した。 79年に販売部門を独立させ「アサダエッグセンター」を設立。コープこうべやイオン、ダイエーなどに鶏卵を出荷。オリジナル商品に「高原の蘭」がある。2003年6月期の売り上げは約55億5千万円。

参考1:「インフルエンザA/H5感染の検査診断のためのヒト検体採取に関するWHOガイドライン」

原文:http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/humanspecimens/en/
和訳:http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/25who-humansps.html

ヒトのインフルエンザAウイルス感染の実験室での診断は、一般的に抗原の直接検出(direct antigen detection)、培養細胞を用いたウイルス分離、インフルエンザウイルス特異的RNAのRT−PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)による検出で行われる。

インフルエンザA/H5感染例の症例定義は、「世界規模のインフルエンザA/H5サーベイランスに関するWHOガイドライン」を参照。

検査施設での初期の検査の目標としては、インフルエンザAウイルスの感染を迅速に診断し、その他の一般的な呼吸器ウイルス感染を除外することである。この診断の結果は24時間で得られるはずである。

インフルエンザA/H5ウイルスの検出に最も適しているのは、発症後3日以内に採取された鼻咽頭拭い検体である。検体の取り扱いはすべて、標準的バイオセーフティ指針に従い行われなければならない。

インフルエンザ診断の手順

インフルエンザAの診断に利用できる検査方法には以下がある:

1.迅速抗原検査:結果は15〜30分で得られる。

 ・Near-patient検査:商品化されている(参照:Nicholson, Wood & Zambon, 2003)
 ・IFA(免疫蛍光抗体法):広く用いられており、インフルエンザAおよびBを含む他の5種類の呼吸器ウイルスにも感度が高い(参照:Lennette & Schmidt, 1979)
 ・EIA(酵素免疫法):インフルエンザのNP(核タンパク)に対するもの

2.ウイルス培養:2〜10日で結果が得られる。

3.PCR(ポリメラーゼ連鎖反応):現在流行中のA/H1,A/H3,BのHA(血球凝集素)の塩基配列に特異的なプライマーを用いることが一般的となっている。検査結果は24時間以内に得ることができる。

以上の様な検査により、インフルエンザA陽性の結果が得られた検体については、後述するH5/N1検査の方法による詳細な検査が行われる必要がある。インフルエンザA/H5検出の特殊検査を行うに当たり、検査能力に限界のある施設は以下の1および2の対応を取ること。

1.検体を、国立インフルエンザセンターあるいは、他の推奨されるリファレンス研究施設へ送付し、特定と特性検査を依頼する(以下を参照)。

「インフルエンザA/H5感染を実験室診断するための、ヒトと動物由来検体の保存と輸送に関するWHOガイドライン」

2.該当WHO国事務所あるいは、WHO地域事務所へ連絡し、検体あるいは分離ウイルスが、詳細な検査のために他の検査施設へ送られたことを報告する。

インフルエンザA/H5の特定

IFA(免疫蛍光抗体法)

臨床検体あるいはウイルスの細胞培養の両方でのウイルス検出が可能。

検査に必要な材料

・ WHO Influenza Reagent Kit for the Identification of Influenza A/H5 Virus (1997-98, 2003 or 2004 version). The reagents in this kit for the immunofluorescence assay include:
 − influenza type A/H5-specific monoclonal antibody pool
 − influenza A type-specific and influenza B type-specific monoclonal antibody pools
 − influenza A/H1 and an A/H3 subtype specific monoclonal antibodies
・ Anti-mouse IgG FITC conjugate
・ Microscope slides
・ Cover slips, 24 x 60 mm
・ Mountant
・ Acetone
・ Immunofluorescence microscope.

手順

WHO Influenza Reagent Kitに含まれている添付文書に従い実施。

結果の解釈

核および細胞質に緑色の蛍光が見られる。細胞密度が適性であることを確かめることが重要。ひとつ以上の破壊されていない細胞が、特異的な細胞内蛍光を示していれば、陽性結果と言える。

黄金律:ヒトからの臨床検体と、ブタあるいは鳥類からの検体は、絶対に同じ実験室で取り扱ってはならない。2003.4.1 追加
カラスからインフルエンザウイルスが検出されました。これは、ニワトリ以外では世界で3例目です。しかし、京都府と国の調査の済んだ一万羽以上のその他のトリからは検出されませんでした。これらから推論されるのは、ウイルスが大量増殖した鶏舎からはきわめてまれに、カラスに感染することがあるということでしょう。渡り鳥からも検出はいまだにされていません。それゆえ、人為的移動を疑う専門家もいます。