これは小学校で講演した原稿で,これを要約したものが東山保健所から各町内へ配られました。

病原性大腸菌 O-157について

上記感染症の被害が拡大していますの。現状で解っていることと,対策を考えてみます。まず,報道された被害例をみてみます。

1.幼稚園で,井戸水を使用していたが,汚染された水が受水槽に混入し,感染して死者が出た。

2.小学一年生が週末に発熱した。家にある下熱剤を投与するとすぐに熱はさがった。また具合が悪くなるようだと,月曜日にでも医師へ受診しようと考えていたところ,日曜日の晩に血便がひどくなり,救急車で入院したが,腎不全が進行し死亡した。被害の拡がりから,給食による食中毒が疑われるが,いまだに,原因は特定されていない。

このことから,対策を考えてみましょう。

本校では,受水槽は地上にあり,底にはかなりの水圧がかかっています。水が漏れることはあっても,汚染された地下水等が侵入することは考えられません。

つぎに,この病気は血便がでて,激しい症状が出て死亡すると一般には考えられています。この事が,2番目の例のような対応の誤りがみられた原因です。この病気は,最初は軽い下痢と感冒症状で,専門家でも,下痢をともなう風邪と区別できません。この時期に,適切な抗生物質を使っていれば,「軽い風邪だった。」で終わっていた可能性が高いのです。血便がでてからだと,入院が必要ですし,ベロ毒素という毒がもう体中に拡がっていて腎不全に急速に進む可能性があります。血便は3割くらいにしか出ないともいわれます。

さて,ここでO−157の特徴をのべてみます。

1. 主に幼児がかかり,2才から5才くらいまでが多い。

2. ベロ毒素という,毒素を産成し腎不全などをおこす。

3. 菌自体は弱く,耐性菌は少ないので,抗生物質が良く効く。初期に対応すれば,簡単に治る。

4. しかし,いったんできた毒素は抗生物質などは効かないので,対策はやっかいで,重症となる。(下痢がでてからでは対応が困難)

5. 初期症状は軽く,かぜと誤りやすい。

6. 感染力はきわめて強い。赤痢や,サルモネラ菌に比べて,100分の1以下のの100個位で,幼児には感染する。

7. 潜伏期が長く,6日くらい。

8. 上三つのために,二次感染がおこりやすく,幼い兄弟に危険。

9. 熱に弱い。

10. 抵抗力のある人では,保菌者になる可能性がある。 

11. 肉が汚染されていることが多い。

12. 生水は危険あり。

保護者におかれまして,もっとも重要なことは,軽いかぜや下痢と思われるときでも,早いめに受診させ,抗生物質を投与することです。

その他の注意点は,一般的な,食中毒に対する注意で十分です。子供たちには,外出後や食事前の石鹸による時間をかけた手洗いを指導してください。大人でも,15秒くらいの手洗いが多くみられます。爪の先・指のあいだ・手の甲まで2分くらいかけて念入りに洗わせてください。爪洗いブラシの使用は効果的です。逆性石鹸ですとさらに強い効果があります。洗面器に薄めた消毒薬に手ををつける方法は,効果が悪いので,現在では病院では行われません。給食の配膳等こどもの手洗いではやや不安ですので,校長先生と相談して,学校では,アルコールと消毒薬を組み合わせた,病院でも用いられる,もっとも厳重な消毒法を導入しています。 もちろん,給食調理室にも導入しています。

その他,注意点をあげてみます。

生肉や生レバを飲食するなどは,もってのほかです。肉には寄生虫もいるので,危険この上ありません。とり肉にも,寄生虫はいます。日本の豚や牛では,数%病原性大腸菌をもっています。(とり,牛,豚,魚など)肉を切ったまな板や包丁は,すぐに洗ってください。そのまま,サラダの野菜などを切るのは危険です。(海産物は腸炎ビブリオがこわい。)

アメリカではレタスによるO−157が報告されています。農場で家畜の糞に汚染されたか調理場で汚染されたか解りませんが,生野菜は避けたほうが安全です。どうしても食べるなら,野菜をハイターを薄めたものに5分以上漬けてください。

ハイター(次亜塩素酸)による表示通りに完全に漬ける消毒は,非常に効果があります。給食調理室では,まな板や包丁を煮沸消毒しています。水筒など,なかが洗いにくいものは,これらの方法が有効です。食器洗い器程度の熱も有効です。乾燥器は効果は不安定です。(完全にぬれていると,殺菌力がます。牛乳の低温殺菌のようなもの。)布巾・ザルなどはハイターまたは煮沸がよいです。手でさわる水道栓も同様の消毒またはアルコール消毒が望ましい。

生水・井戸水は危険性があります。煮沸が安全です。

肉はとくに,なかまで火をよくとおしてください。イギリスで,蜂蜜のボツリヌスによる子供の死者の報告があります。生卵も同じ危険性があります。これらは,加熱が必要です。

電子レンジは不均一な加熱で,部分的に生のことがあります。加熱したあと,できるだけ早く食べましょう。2時間もすれば,200倍から4000倍も菌が増えることがあります。

冷蔵庫を過信してはいけません。すべて,食中毒に適応する注意です。

下痢の人は風呂につかってはいけません。家族の最後に,シャワーのみを浴びます。床はハイターやオスバンなどの消毒剤を流して,消毒しておきます。足拭きマットは良く洗い,日に当てて乾燥させます。心配ならハイタ─をします。風呂の水はすぐにすててください。大腸菌は一晩で膨大な数に増殖します。風呂をハイタ─で掃除・消毒するのは,カビ除けにもなり効果的と思われます。ハイタ─等の塩素系消毒剤を大量に吸い込まないよう,換気に注意します。

下痢の人の下着にさわってはいけません。使い捨ての手袋や,ビニール袋を利用します。さわった手は,すぐにアルコールを含んだ消毒剤で消毒します。下着は別洗いにし,ハイタ─で消毒するか,煮沸します。汚れた下着の保管方法に注意し,他に広げないよう,ごみ袋などを利用し,使い捨てにします。トイレの水栓レバー・電気スイッチ・水道栓・ドアノブから菌は拡がりやすいので,アルコールで消毒します。便坐もアルコールで消毒します。便器の洗浄剤は,表示を良く確かめて,殺菌効果のある洗浄剤を選びます。下痢などのときは,毎回ハイタ─での洗浄も良いでしょう。

衣類乾燥器の熱は有効です。コインランドリーなどで,汚染の危険がありますが,衣類乾燥器を使えば大丈夫と思われます。

以上の点に注意すれば,過剰に心配して,パニックになる必要はありません。

冷静な,しかし迅速な,対応をお願いします。

アルコール系消毒薬 商品名 ウエルパス 等

参考 他の食中毒

腸炎ビブリオ 大腸菌 サルモネラが食中毒の大部分で同じ数=1/3ずつ

腸炎ビブリオ 海産物 分裂10分毎 水温15度以上 加熱する

サルモネラ 卵(糞) 牛 豚の腸 卵のなかにはじめから入っている種類がある(一万個に一個)

黄色ブ菌 分裂2〜3時間  毒素型 加熱で毒素jは壊れない 化膿創

ボツリヌス 分裂10時間 毒素型 川 土のなか 毒素も菌も加熱で壊れるが,芽胞が多いので加熱後また増殖する  嫌気性 蜂蜜に入っている 死亡率50% 乳幼児に危険

六原小学校校医

河合 尚樹

報道によりますと,スコットランドではO−157が冬でも発生し続けてお り,死者も多くでています。原因はひき肉料理の集団発生です。スコット ランドでは発生が多く,政府が調査にのりだしたそうです。中間報告によ ると,野菜も汚染されているようです。子供が牧場に行き,牛に触れて感 染したり,ボール遊びしていた子供のボールが動物の糞にふれて感染した りした例が報告されています。スコットランドの家畜の汚染は強いようで す。

以下は,私見です。世界的視野に立てば,そもそも,生の野菜を食べる習 慣を持つ民族はごく少数です。アフリカやアラブのほとんどの民族はなま ものを絶対口にしません。アジアでも,ごく最近まではそうだったはずで す。中国人も原則なまものはとりません。日本でも,生野菜が広まったの は戦後です。野菜は糞尿を肥料としていましたから寄生虫が多く,生野菜 を避けるのが人類の知恵だったはずです。日本や中国もそうだったのだと 思います。中国人が生魚を避けるのも,淡水魚が主であり,寄生虫が怖い ためで,3000年の知恵というものです。洋風化すなわち文化的,進歩的と いうイメージもあるでしょう。生野菜すなわち健康的というイメージや宣 伝に惑わされたのでしょう。生野菜を食べるなどというのは,北欧の一部 の習慣ではなかったのではないかと推測しています。寄生虫が減り人類は 安心していたところ,足元をすくわれるというのは,AIDSに似ていま す。

厚生省,農林省は早々と学校給食への生野菜の再開を決めました。国民の 健康への配慮より,業界等の利益団体への配慮が見え隠れしています。国 より早く再開した長野県は生産者に押されたのでしょう。私は,教育委員 会へアメリカのレタスによる感染の報道切り抜きを送ってやったので,97 年2月の時点では京都の給食には,まだ生野菜は再開していないようです。 一日の1回の食事に生野菜が欠けても問題はないでしょう。献立のバリエ ーションが減るだけですから。対策は,生野菜を避けること,どうしても 食べたいなら,薄めたハイターに漬けることです。私は日本の役所やマス コミを信用しません。健康問題に関する報道もあまりにおそまつです。 寄生虫の項目がありますので,ぜひ参考に してください。

97年2月の時点では,厚生省や大阪市立大にもあまり新しい情報がありませんので,リンクはありません。