肺炎ワクチンの再投与問題


  

 

 

 

肺炎の治療ガイドラインは3種類を参照しなくてはいけません。

アメリカには二つのガイドラインが並立し、矛盾した治療法が記載されています。

アメリカのガイドラインは当初二つの学会が合同でまとめるとして着手しました。アメリカ感染症学会と、呼吸器学会です。

ところが、二つの学会の会長がとんでもない個性派のボスで、互いに主張を譲らなかったのです。ガイドラインは途中で分裂し、ふたつ出来上がることになりました。そのため、ひとつの病気に矛盾するふたつのガイドラインが出来上がったのでした。

日本はそれを見てから作成しているので、なかなか良い出来で、日本の実情にも合っていると思います。

素人マスコミなど、医師がガイドライン通り治療しないと、すぐに金儲けだとか、勉強不足だと非難しますが、現実の治療はそんなに単純ではありません。 ガイドラインが万能なら、コンピューターにプログラムして患者さん全員に一律の治療をすればよいわけで、臨床の長年の経験など不要というものですが、現実はマスコミの考えるほど単純ではありません。

肺炎球菌が耐性化しているので、どのガイドラインを見ても苦慮しています。

もちろん、一番良いのはワクチンで予防してしまうことです。これが最上の方法なので、先進国では予防接種が推奨されています。

日本でも某国営テレビが放送してくれたおかげで、一月には肺炎球菌ワクチンが取り合いで、手に入らなくなってしまいました。河合 医院のホームページでは数年も前から提言していたのですが、某国営テレビの影響力にはかないません。

ガイドラインにも3種類以上あるわけですから(イギリスにもあったはず)、ワクチンの接種についても国によって違いが生じるのは仕方ありません。

日本の厚生労働省は再接種を厳重に禁止しています。

私は、世界の標準医療?に近づけるのを理想としています。確定した理想のそんなものがあるのかどうかという議論ももちろん可能です。進歩・発展するものは常に流動しているのです。

WHOは最新ではないときもあるが、信頼できる部分が多いとおもいますし、アメリカのCDCは急変する新しい事態に適切な情報を与えてくれると感じています。

もちろん参考にはしますが、日本の厚生労働省は信頼できないと感じます。

肺炎球菌ワクチンに関しては、アメリカでもはじめのころは再接種すると腕が腫れ上がることや、5年以上10年位も抗体が持続するので、1回接種が標準でした。

しかし、抗体価が極めて徐々にですが下がってくること、腕の腫れは生じても重大な副作用ではないことから、最近は肺炎球菌ワクチンの再接種を積極的に行うように潮流が変わってきています。

アメリカでもできてから新しいワクチンであるので、どのような人に再接種すべきか、何年をあければよいのかに明確な科学的根拠はいまだありません。

しかし、CDCは65歳以前にワクチン接種を受けていた場合、65歳以上になればもう一度は予防接種を受けるように勧めています。

抗体は5年は十分持つでしょうから、5年以上あいた人で、65歳以上の人に再接種すればよいということです。

しかし、このワクチン接種が知られだしたのはこの半年くらいのものですから、現実に日本では該当者はまずいないでしょう。

個人的には、10年経てばもう一度接種したほうが良いと思いますが、これには科学的証明は今のところありません。抗体価が下がるといっても、ワクチンはきわめて多種類の抗原の混合物ですから、どれを指標にするかも問題です。検討には7年くらいはかかると思います。

現実の医療では、科学的根拠を待っていては、目の前の現実の患者さんに何の助けにもならないことはよくあることです。科学的に推論し、合理的に現実に対処するしかありません。

再接種基準は以下のとおりです

65歳以上で、前のワクチン接種が5年以上前で、しかもそのときの年齢が65歳未満だった人。

(抗体価を調べれば良いと考える医師も多いでしょうが、血清学的データでは定義できないと、明確に記載されています。)

再接種による有害反応は、局所反応が強いことはあるが、4年以上の間隔を空ければ、有害反応の発生率が初回より高くはないというデータがあります。

3回以上の再接種に関しては、明確なデータがアメリカにもなく、勧めることはできないと記載されています。

CDCの2002年の考え方を追加しておきます。

アメリカの接種に関するメタアナリシスでは、7531例中発熱やアナフィラキシーの有害反応はゼロであった。きわめて安全なワクチンのひとつと考えられます。

死亡率について
アメリカでは死因の6番目であり、年間4万人が発症する。このワクチンで、年間2万人の死亡が防げるとされている。60%は助かるといわれている。(報告では61%から80%。こんなに効率のよいワクチンはない.)
もちろん髄膜炎にも効果がある。途上国では髄膜炎が問題なので、アフリカでは髄膜炎予防のために、子供に接種する実験が始まっているらしい。

禁忌はチメロサールの強いアレルギーだけ。

適切な抗菌療法と集中治療にもかかわらず、アメリカでの成人の肺炎球菌性菌血症の死亡率は15〜20%であり、高齢者では約40%に達する。スラム地区では36%である。(日本でも高齢でなくとも、路上生活者には実施すべきと思う)

64歳未満でも接種すべきなのは、慢性心血管系疾患(うっ血性心不全・心筋症等)、慢性肺疾患(COPD・肺気腫)(ただし喘息は除く。これはリスクが増加しないのが証明済み)、糖尿病、アルコール中毒、慢性肝疾患(特に肝硬変)、脳脊髄液漏。 これらは明確なデータが存在する。

明確な証明がないが、疾患発生のリスクが高いのが知られており、ワクチン接種が安全であることから、得られる利益が多いと考えられ、接種が薦められているものには、無脾臓症、AIDS,白血病、リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、全身性悪性腫瘍、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、副腎皮質ステロイドの長期全身投与などの免疫抑制化学療法を受けている人。免疫抑制状態を伴う疾患で2歳以上の人(例 骨髄移植・臓器移植等)

肺炎球菌ワクチンのすすめ

2003.02.01
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河合 医院

初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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