肺炎球菌ワクチンのすすめ


  

 

 

 


在宅医療を行っている患者さんの孫が、カナダで医師をしています。そのお孫さんから、「Pneumovaxお願いします。」と依頼がありました。

「日本で手に入るか解らないけれど、しておくにこしたことはないので、探してみます」と返事しておきました。

ニューモバックスとは、肺炎球菌のワクチンです。カナダでは希望者が開業医へ行けば国の費用で無料で受けられます。医療費削減と耐性菌対策として非常に有効だからです。

いつも、自分の医療は世界的にみて特殊なものになっていないか注意しています。日本の常識がおかしいことも多いからです。また、日本のマスコミは特殊で、報道などうかつに読めばとんでもないことになります。厚生省も同様です。これからも、海外の標準的治療には常に注意を払う必要があります。

それだから、ニューモバックスのことも何年も前から注意を払ってきましたので、返事は即答できました。

調べてみると、日本でも発売されていました。なんと、1988年発売と書いてあるではありませんか。取り寄せて注射をしました。アメリカの4〜5倍以上の値段ですし、輸入製薬会社も売る気はないようで、宣伝も見たことがありません。メーカーが慌てて説明にきましたが、京都府の開業医に初めて売ったそうです。とんでもない的外れの説明でした。関西には在庫も置いていないようです。1988年といえば、インフルエンザワクチン悪玉論でマスコミが盛り上がっていたころです。これでは、宣伝はできなかったのでしょう。また、日本の医療が低俗マスコミなどに引きずられ、厚生省も尻馬に乗るから、世界的に見て非常に恥ずかしい状態であるのが良く理解できました。

日本において、健康保険制度では「2歳以上の脾臓摘出後の感染予防。」にしか認められていないのです。こんな馬鹿げた国は他にないでしょう。脾臓摘出の子供など私は見たことがありません。もちろん医学を学んでいますから、脾臓摘出の必要性と適応は十分理解していますが、非常に特別な病態や事故でないと行われません。私は現実にそのような患者さんを診たことがないのです。よくぞ、こんな稀有な症例を適応にできたものだとあきれはててしまいます。対象があまりに少ないので、日本では4〜5倍の値段なのも納得できます。

年齢  10万人対比肺炎死亡者数
〜 4 3
5〜34  0〜1
65〜 69 58
70〜74 134
75〜79 317
80〜85 783
85〜89 1613
90〜 3419

これらの死亡者の20%程度が予防できると考えられます。海外では、先に述べたように老人には一般的に行われています。特にデイサービス利用者や施設入所者には積極的に予防注射がおこなわれます。

こんな変な適応も日本の実情からはしかたありません。厚生省も製薬会社も必要性は十分理解しているはずです。しかし、予防注射です。重い副作用は10万人に0.4から0.5とアメリカの論文には出ていました。その極めて大きい利益から、これくらいの副作用は海外では問題にもされません。しかし、日本の低能マスコミのA新聞などの手にかかると、一例でも副作用の重症者が出れば製薬会社は袋叩きになりますし、厚生省もたたかれるでしょうから萎縮して, 海外では当然の予防注射は、日本でも発売されているのに、医師さえも存在をほとんど知らないのです。もちろん、科学的に本当に薬の副作用かどうかの検証はどうでもよいのです。低能マスコミの目標は、医師や製薬会社を叩き潰すのが目標だからです。

会社は発売で社会的責任を果たすのですが、万が一副作用でマスコミの袋叩きに会えば、会社の存立さえ左右されかねませんから、売込みをしないのは当然です。会社もマスコミも、厚生省も多くの老人が死んでも知ったことではありません。みんな自分がかわいいのです。インフルエンザ脳症や、流行で数千人の死亡者が出ても、新聞社やテレビ局の社長は辞任したことがありません。他の会社社長や政治家を辞任に追い込むのがマスコミのお好きないつもの手なのですが。

マスコミのヒステリックな非科学的言説に基づく、「個人の自己責任」という行政責任回避が日本の予防注射政策なのです。

インフルエンザ予防接種が公費で受けられない先進国などありはしません。低能マスコミの最大の成果は、インフルエンザ予防接種廃止ですし、だれも責任をとりません。ありもしない「イギリスでインフルエンザ大流行」と流した、世界的にも恥ずかしい報道をする国ならではです。

肺炎球菌による肺炎は全肺炎の23%くらいです。以前はペニシリンが良く効きましたが、いまは耐性菌が非常に増加しています。40%から50%近くは耐性菌です。日本ではまだペネム系の薬剤が使えるとは思いますが、早晩これにも耐性化するのは目に見えています。肺炎球菌は、近くで死んだ菌のDNAを取り込み、自分のDNAとして利用するという恐ろしい菌です(形質転換)。耐性菌が多いのもうなづけます。耐性菌の対策のために抗生物質を多用するより、予防注射で発病を防ぐほうが安全です。10万人に抗生物質を使用すれば、肺炎で死亡する可能性も高い上に、0.4以上の副作用がでるのは確実です。予防に勝る治療などありません。理性的に判断すれば、海外のように積極的に肺炎の予防注射をすべきなのです。

海外では子供にも積極的に実地使用を行いましたが、効果は残念ながら認められませんでした。2歳以下では免疫能力が未熟で、注射をしても免疫ができにくいので効果がなかったのです。3歳以上に接種することも考えられますが、5歳くらいになると肺炎で死ぬことは意外と少ないのです。(事故で死ぬ率が最大です。)

子供の中耳炎の主な原因ですので、これにも実地使用をしましたが、効果はありませんでした。耳管が短く水平なのが問題であり、菌の強さはあまり関係ないのです。中耳炎にペネムを使うのも議論のある所です。アイスランドで中耳炎に抗生剤の使用を禁止したところ耐性菌が減少したという話が有名です。

結局65歳以上の老人がもっとも効果があります。最大の効果は、結核などで肺が変形し ている人、肺気腫など肺に問題のある人に期待できます。他に、癌患者・心不全・肝硬変・腎不全・糖尿病・寝たきり老人などが良い対象です。

たとえば、癌や心筋梗塞・脳卒中などで倒れたときに、合併症で肺炎を起こし、そのために死亡することはよくあります。肺炎にならなければ、元気に退院できたはずなのにと残念な思いをすることは多いのです。脳卒中や心筋梗塞の死因に肺炎が絡んでいる可能性は大です。他病死(原因の癌など)とされていますが、上記の表以上の死亡の可能性が大です。肺炎球菌は常在菌で、どこにでもいます。寝たきりの老人は唾液などを誤嚥し肺炎が死因となることもあります。抗生物質が効きにくいので、普通の人も予防注射の利益は大きいのです。

カナダなら、老人が施設を利用するなら当然予防接種を要求されるでしょうし、老人施設側が予防に不熱心なら訴えられかねません。ところが、日本ではまったく逆なのです。予防接種で副作用が出れば、マスコミに袋叩きです。理論的に正しいことが認められにくい国です。こんな特異な先進国?はありません。

低能マスコミの新聞などが、医師や製薬会社を金儲けの強欲とたたき喜ぶのは、言論の自由からしかたありません。しかし、本当に必要な科学的・理性的な必要情報は流れなくなり、予防接種悪玉論が蔓延しています。情報弱者の幼児や老人は必要な情報から疎外され、先進国ではあたりまえの予防策さえ得られず、情報の谷間に死んでいくのです。もちろん、新聞会社は責任をとらず知らぬ顔です。

積極的予防を薦めています。

なお、これは1回だけで 2度はできません。2度目は腕が腫れる可能性があるからです。しかし、一度で長期の効果が期待できます。注射後の腫れ・痛みなどは正常の反応で、副作用ではありません。

読売新聞4月1日に肺炎球菌の記事が一面に載りました。しかし、耐性菌の恐怖を煽っているだけです。ワクチンの記載がないので意味のない記事になっています。 予防接種を悪いこととして報道してきた悪影響が残っているので、まともな理性的記事にすることができないのです。マスコミの無能の一例です。世界の常識と大きくはずれています。

2002.8.1改訂
日本の厚生省は再接種を禁止しています。。厚生省を信じた私が馬鹿でした。アメリカのCDCは65歳以上で接種から5年以上立った人には再接種を薦めています。再接種で腕の腫れは増えます。最初の接種では3%の人が腫れるとされているのが、再接種では11%に増加します。しかし、この程度の副作用は再接種を避ける理由にはならないと宣言されています。
日本の厚生労働省など信じず、WHOやCDCを信じるべきだという原則を守らなかった、私の失敗でした。もちろんマスコミなど検討にも値しません。

2001.03.01
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初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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