KAWAI clinic

看護婦達の異常な憎悪

在宅で高齢者のバルーンカテ(持続導尿)をおこなっています。80才以上で多くは仮性包茎で一人は真性包茎です。仮性とは皮膚が亀頭を覆っているが,亀頭を露出可能なもので,真性は露出できません。皮膚の出口が亀頭より小さいため,亀頭を露出できません。このため,恥垢(スメグマ)がたまりやすく,不潔になりやすいとされています。包茎は癌になりやすいとされています。こんなところが,専門家でない医師と看護婦の知識でしょう。

週2回の入浴デイサービスと,訪問看護婦による清拭が行われています。ヘルパー・看護婦・介助補助みんな陰部を清潔にするのに熱心です。恥垢への憎悪は女性は激しいらしく,一かけらでも残れば一週間で癌にでもなるかのように一生懸命とってくれます。きわめて稀に,恥垢に感染を併発して亀頭包皮炎を起こすのも恐れてでしょう。残念ながら,長く医者をやっても今まで性病以外で亀頭包皮炎を診たことはありません。仮性包茎なら問題はありません。問題は真性包茎です。彼女達はなんとか恥垢を取ろうと必死です。包茎はけしからんとばかり,包皮をめくってくれます。長く使用することもなかったペニスです。ひっくりかえせないことはありません。元の状態に戻すように指示を出してあるから,もとの包茎に戻したつもりで家にもどされてきます。さて,半日ほどして,家族より,陰部を痛がっていると電話があります。急いで往診です。診たところ,一見普通の包茎ですが,簡単にめくれて,かわいそうに,内部の亀頭は水庖状に(みずぶくれ)腫れ上がっています。
さあ,それからが大変でした,患者はいたがる,放置すれば亀頭は壊死に落ちいりかねません。必死に戻そうとするのですが,戻りません。最悪なら入り口をハサミで開き圧迫を取る必要があります。できなくはありませんが,出血がひどく止血しにくいし,感染の可能性もあります。戻すのに30分かかってしまいました。
次の日に,看護婦が訪問して体をふいていきました。昨日の騒ぎで,少し亀頭を露出しやすくなっています。知識のない奥さんに,これが本来の姿ですと説得までして,亀頭を露出して帰ります。半日すると前日の大騒ぎが繰り返されました。まったく,彼や彼女達の包茎と恥垢に対する熱心な憎悪には敬服するばかりです。

原因は,狭い入り口を,亀頭のもっとも太い部分を乗り越えて後退させ,ペニスを締め付けてしまいます。それを元に戻しているつもりなのですが,締め付けた部分は固定されているので,あまった皮膚をかぶせているだけなのに,気付かないのです。外見上は元の包茎です。徐々に鬱血が進み浮腫から,最悪の場合は亀頭の壊死を起こします。(図の右側)

違う施設,同施設でも看護婦の交代で先程の混乱が繰り返されます。 この様な事は教科書にも記載されていません。陰茎絞扼というのは教えられていてもいいはずなのですが。看護婦養成過程で泌尿器科で教えてもらいたいものです。

「看護婦はなんであんなに包茎と恥垢を憎んでいるのか」と私が怒っていると,うちの薬剤師は「まあまあ,清潔にしようとしてるだけだけなのでしょう」となだめます。まあ,それが本当なのでしょう。

さて,河合 尚樹のいつもの医学常識批判です。恥垢がそんなに悪玉かというものです。

1.恥垢がそんなに感染力が強いのなら,男性より女性の方が膀胱炎が多いのを説明できません。

2.ペニスに相当する器官は,女性ではクリトリスです。クリトリスにも恥垢はたまります。性行為を行わない女性や,高齢者でクリトリスの清拭をまったく行わない人も多いはずです。女性のクリトリス癌が多発したとは聞いたことがありません。

3.看護婦達は女性の陰部清拭にはそれほど熱心ではありません。クリトリスの包皮をめくって掃除しているのをあまり見たことがありません。敏感なのであまり清拭をしないようにしているのではないでしょうか。

4.モンゴルの近くでパオに泊まったことがあります。冬は零下40度だそうです。パオにはトイレも風呂もありません。夏は川で水浴びですが,冬は風呂になど入りません。他にも風呂に滅多に入らない民族も多いでしょう。これらで,多少は多いかも知れませんが,陰茎癌が極端に問題になっているとはききません。

5.不潔は癌の原因かもしれませんが,恥垢により癌が増えるというのはどこまで本当か疑わしいものです。たぶん古いデータはあるでしょうが,発癌ウイルスや癌遺伝子が解明されてきたのは最近です。子宮頚癌がパピローマウイルスにより,胃癌がピロリ菌であるのが解明されたのも最近の成果です。いまや,心筋梗塞はクラミジア感染であるとアメリカでは言い出しています。古いデータは信用できません。

健康のためなら死んでもよいという,異常な清潔指向が反映されています。 もちろん,清潔がいいにきまっていますが,日本人の潔癖症が極端に現われている一例ではないでしょうか。若い人の陰部は清潔にして欲しいものですが,感染がなければ,80才の寝たきりの包茎など適当にやっていればよいのです。

癌ができたとしても,毎月専門家が交換のために見ているのですから,怖いものではありません。

追記  適当とは綿棒で分泌物をかるくこすりとることです。


1999.01.01
http://www.geocities.com/HotSprings/4347/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170 河合 医院

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